「学習者が伝えたいことを尊重する教材として最適」

牟田綾先生(アメリカ:在米の日系企業内での日本語コース)

米国に所在する日系企業の日本語コースで研修を担当していました。

―『まるごと』を教えていた環境について教えてください。

2019年にアメリカの企業で働いているビジネスマンを対象に『まるごと』コースブックを使用した授業をしていました。いろいろなクラスが開かれていましたが、私が主に担当したのはA2(初級2)レベルで、2-3名の小さなクラスでした。授業のペースは、スタート時から2週間程度はかなり集中的に、1日3時間のレッスンを週5日間行い、それ以降は週3日のペースで行っていました。
自身が国際交流基金からマニラに派遣されることになり、3カ月ほどで他の先生にクラスをお願いすることになってしまいましたが、コースはその後も継続していました。

- 学習者は、仕事で日本語が必要だったのですか。

学習者は日本で仕事をすることが決まっていましたが、日本語を仕事で使用することは求められていませんでしたので、日常で使える日本語を中心に授業をしていました。学習者にとっての日常とは、日本で買い物やレストランに行くだけではなく、日本人スタッフと談笑し関係性を築く、といったことが重要であることを意識していました。

-『まるごと』を選んだのはなぜですか。

2017年にアメリカの社会人講座で使用したのが『まるごと』との本格的な出会いだったと思います。その時は2-3週間のみの使用でしたが、写真やイラストがカラーで、イメージの持つ力があるという印象でした。また、成人の学習者はそれまで生きてきた中での知識や経験を十二分に蓄えていて、それらと新しく学ぶことを繋げるには文化について考えることが切り離せないと思いますが、『まるごと』は文化に関する内容が充実していて使いやすいと感じました。
2019年のコースでは、渡日後の学習者が仕事や生活の場面で、日本語話者とよりよい関係が築けることを意識していましたので、相手の言語行動を理解するために日本の文化を学ぶツールとしても『まるごと』がふさわしいと思いました。

-『まるごと』を実際に使ってみて、どうでしたか。

自身が授業をするうえでのテーマとして「学習者のできることを奪わない」「学習者を信じる」という第二言語習得論を意識した考え方があるのですが、そのような考え方を持って使うには『まるごと』が最適だと思いました。学習者の認知能力を信じて、学習者の伝えたいという意志を尊重するところが『まるごと』の考え方と同じなのかなと感じました。
学習者が日本語を使ってやれることには制限がある、だからこそやりとりは“シンプル”であるべきだと思います。でも学習者の思考能力や知識、想像力を教師が制限するのはもったいない。私が見てきた学習者は、小学生のころから自分の意見をしっかり述べることに慣れていたり、理論的に考えることが得意だったり、想像力をふくらませて楽しいジョークを言ったり…と素晴らしい力を持った成人なので、そういったものを授業中にもできるだけ活かしながらシンプルなやり取りをするように心がけていました。たとえば『かつどう』には4-5パターンの会話を聞いて問題に答える聴解練習がありますが、最後の一問は聞く前に学習者同士で会話を予測させることがあります。ユーモアあふれる会話や、見事に予想的中な会話が出てきたりと、それぞれの個性が発揮される時間にもなります。

-『まるごと』を使ってどのように教えていましたか?

学習者は多忙な仕事の合間を縫ってクラスにやってきます。大きなプロジェクトを抱えていたりすると、疲労困憊の状態で3時間の語学レッスンを受けるわけですから、こちらも時間内でのメリハリを大事にしていました。
たとえば『かつどう』と『りかい』は日によって分けるのではなく、1日のなかで両方を扱っていました。基本的には会話中心の『かつどう』から入って、会話のタスクまでできたあとに『りかい』で文法を確認するという使い方ですが、課によっては両方から練習をピックアップし、『かつどう』と『りかい』を行ったり来たりすることもありました。
また文化の部分は主に英語で進めていました。「ことば」の授業では基本的に日本語を使用し、「文化」の時間だけ英語に切り替えることで、日本語と英語が混ざってしまうようなコードミックスを減らしたかったことと、長時間の授業の中で「ことば」の授業内に学習者の集中する時間を確保したいと考えたからです。実は『生活と文化』のページはそのままではちょっと使いにくいものもあったので(アメリカには「作りながら食べる料理がない」と言われたり…)、トピックを少し掘り下げたり、そこから発展した話題について扱いました。たとえば、日本の小学校の給食制度についてアメリカと比較しながら意見交換をするなど、学習者が日本に行ってから身近になりそうな話題をとりあげました。日本の文化を自国の文化と比較しながら理解するということを意識してもらうような活動で学習者の日本への理解が深まるとともに、言語学習のおもしろさにはまってもらう。それが日本語学習へのモチベーションアップにつながる、ということを目指しました。

-『まるごと』コースブック以外のコンテンツは利用しましたか。

『まるごとプラス』や『まるごとのことば』などを授業で取り入れていました。特にA2レベルの「まるごとプラス」のコンテンツには「シェアハウスのあきこさん」というキャラクターの住むもう一つの世界があって、学習者も興味を持ってくれました。課をひと通り勉強したあとに「まるごとプラス」のドラマを見せると、勉強した内容がストーリーにすべて入っているので、学習者には「勉強したことがするっと入ってくる」と好評でした。登場人物のキャラクターがしっかり設定されているので、アテレコをするのも盛り上がりました。
また、「語彙リスト」(「まるごとのことば」)は教師がカスタマイズ出来るのがとても便利でした。リストを作るときに、できるだけミニマムで、かつ必要なものは絶対入れたいという2つの条件が短時間でかなえられるのはありがたかったです。リストは授業前に学習者にメールで送り、予習に使ってもらいました。授業中にはリストを(語彙と意味の区切りで)折って、ペアでの確認練習(一人がランダムに読み、もう一方が語彙を指すなど)にも使用していました。

-『まるごと』について伝えたいことはありますか?これから使うかもしれない先生に向けてメッセージを。

“Learning Journey”ということばがあります。言語学習とは、新しい考え方を手に入れて自分の世界を押し広げるようなことだと思うのですが、そこには線で引いたようなゴールはありません。わたしたち教師は「なるべく早く、楽しく遠くへ行ける道」を示そうと日夜あがくわけですが、どんなに素晴らしい先生でも学習者の代わりに旅をすることは出来ないのですよね。学習者の様々な力を信じて、紆余曲折をともにしながら学習者のLearning Journeyをともに楽しみたい教師のみなさんに『まるごと』はおすすめできる教材だと思います。 そして私自身も、学習者と一緒に成長できることを楽しみながら、『まるごと』のよりよい使い方についてこれからも模索していきたいと思います。

※現在は国際交流基金がフィリピンで実施するEPA研修の日本語専門家として『まるごと』を使用中(2020年)
この記事は、2019年末に実施したインタビューをもとにしています。

"I’m learning the Japanese that people actually use through Marugoto"

Nathan May (New York, USA)

Working as a professional business writer, Nathan studies Marugoto Elementary 1 (A2) on a JF Language Course in New York. He has a Japanese wife and he tells us that she is happy with his learning Japanese with Marugoto as his Japanese proficiency and motivation have improved markedly.

-What do you think are the advantages of Marugoto?

I like the emphasis on speaking naturally in Japanese, and learning very early to start doing that instead of memorizing fixed phrases as they do in many other classes. Also, thanks to the emphasis on the Can-do Statements, you are able to start learning the language quickly in a real life context. The topic-based approach seems real to me as opposed to a very formalistic approach.
My wife tells me what we are learning is what people actually use as opposed to learning rather long formal phrases that are technically correct but not really the way people talk every day.

-Please let us know if you have any stories that demonstrate the results of your study with Marugoto.

The other day, when I was in a diner in my neighborhood, I helped a group of three elderly Japanese tourists order food and this led to a nice conversation. We conducted it almost 80% in Japanese. That was on very simple things, but we spoke almost for 10 minutes. I’d just learned the terms for "departure" and "arrival" from the topic on business trips in Marugoto so I asked them what time their plane was departing, when they were going back to Japan and we exchanged all this information in Japanese, which was great. Everything I used was directly related to Marugoto. That was probably my most natural, completely unplanned Japanese conversation.

-Please let us know what you would like to do in the future using Japanese, if you have such a plan.

I travel to Japan regularly so I want to continue to communicate more in Japanese with my wife, my in-laws and brother-in-law, and feel more comfortable in Japan interacting with people on my own in Japanese.
The more Japanese I learn, the better able I will be to enjoy the culture. I like Japanese people and so learning Japanese helps me get to know them on a more personal level. Also, I know it’s a long path – because of the many Kanji I’ll need to learn – but I really want to improve my ability to read Japanese as well.