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1997年7月、香港は中華人民共和国香港特別行政区となった。 英国支配下の150年“東洋の真珠”と呼ばれた南海の小島は、エネルギッシュな経済活動で世界に君臨してきたばかりではない。美しい自然と東西の文化が交錯する地の利を得て、数多くの映画の舞台ともなってきた。そのスクリーンを振り返ると、香港の現代史が浮かび上がる。香港を訪ねるなら、“映画散歩”へのチャレンジをお勧めしたい。 |
ヘンリー・キング監督の『慕情』は、朝鮮戦争の直後、大ヒットしたメロドラマだ。中国の内戦で大陸から香港に逃れて来た英中混血の女医と、朝鮮戦争に従軍して帰らぬ人となる米国人新聞記者との切なくも甘い恋……。ストーリー自体はいささか新鮮味に乏しいのに、多くの映画ファンの涙を誘わずにおかなかったのは、『聖少女』(1943年)のヒロインでアカデミー主演女優賞に輝いた知性派女優、ジェニファー・ジョーンズの迫真の演技のせいばかりではない。主題歌の美しいメロディーと、異国情緒たっぷりの香港島の風景があったればこそ。恋人たちのひたむきさも、恋のはかなさも引き立ったのだろう。作品には香港島のいくつもの風景が登場するが、多くの感動的なシーンの舞台となったのは「病院の裏手の美しい丘」だ。 新聞記者のマークと女医のスーインが人目をしのんで逢ったのも、マークが朝鮮に旅立つ日、二人が別れを惜しんだのも、マークの悲報を知ったスーインが一人たたずむラストシーンも、この美しい丘が舞台だった。息をはずませて駆け上ってくるスーイン、そして、大樹の陰から現れて彼女の手を取るマーク。澄んだ空気と青空に包まれた緑の丘は、甘く美しいラブ・ストーリーを象徴する絶好のロケーションだった。「その丘はヴィクトリア・ピークだよ」。映画では決して特定されていないのだが、香港人も外国からの観光客もこう断定してはばからない。何よりもいわゆる“百万ドルの夜景”を見下ろす場所がヴィクトリア・ピークだし、映画の中でも「丘」のシーンと連続してヴィクトリア・ピークからヴィクトリア港を望む眺望が写し出されているからだ。原作者のハン・スーイン女史が勤務していた病院もヴィクトリア・ピークの中腹(ミッド・レベル)にあったのだから、実際のデートの場所もその周辺だったのだろう。映画も「丘」をヴィクトリア・ピークの一角と設定していたことは間違いなさそうだ。 そこで、『慕情』をたどる散策もヴィクトリア・ピーク(チェケイサーン=址旗山)からスタートしよう。 |
ヴィクトリア・ピークに登るのなら、まず海辺に出て、セントラルのスターフェリー乗り場(天星碼頭)に行こう(1)。ここからピークトラムのガーデンロード(花園道)駅までを、10分ごとに片道3ドルのシャトルバス(15C) が結んでいる。このバスはオープントップ型。その二階席に陣取り、風を切ってセントラル(中環)のビジネス街を抜け、高級マンションが林立する山腹へと進んでいく気分は最高だ。アメリカ領事館前にある麓の駅から小豆色のトラムに乗る(2)。運賃は大人片道HK$20、往復ならHK$30。ヨーロッパアルプスで使われている登山電車と同じ性能を誇るスイス製のトラムは、斜面に合わせた斜体で内部は階段構造。 どうせ座るなら、進行方向右側後方に席を取りたい。トラムが高度を上げていくにつれ、角度を変えたビル群の景色が楽しめる。左側は山ばかりだ。約8分で山頂駅(ピーク・タワー)に到着(3)。エスカレータを登りきると展望台があり、思わず「おおー」とでも声を上げたくなるような雄大な眺望が広がる。足下には超高層ビル群、深いブルーのヴィクトリア港の対岸にはやはりビルが密集する九龍半島、その奥に新界が広がっている。 |